のれん分け

【これからお店を増やしたい方へ】のれん分けを社内人事施策として利用する

過去のコラムで のれん分け 制度の仕組みやフランチャイズとの違いをご紹介しました。

本コラムではより深掘りして、店舗展開の初期段階に、社内人事施策としてのれん分けを活用することを提案したいと思います。

のれん分けに向いている業種

労働集約性が高い業種

例えば、飲食業、美容室、マッサージ院など、人が介在して提供する業種に向いています。労働集約性が高いとは、サービスを提供する際に人の労働力に頼る割合が高いことを言います。そのためこういった業種では1人が生み出せる売上に限界があります。また、人の教育に時間とコストがかります。こういった特徴から雇用関係を維持して継続的に従業員の待遇を上げていくことが困難であるため、従業員への報奨としてのれんけ制度が利用される傾向にあります。

スタッフに顧客が付く業種

上述のような業種に多いことですが、提供するサービスの品質が人の能力に大きく左右される業種や、顧客にとって従業員との関係性が店を選ぶ基準になるような業種です。のれん分け制度で従業員がオーナーとなり、長期的にサービスを提供することで経営を安定させることができます。

技術の習得に一定の時間がかかる業種

調理技術やカット技術、マッサージ技術など、習得までに一定の経験が必要な業種です。こういった業種は、従業員の技術習熟度が他社との差別化要因になります。他方、技術を習得した社員の退職は、サービス品質の低下や新たな教育コストの発生を意味します。繰り返しになりますが、人が介在してサービスを提供する業種では、雇用関係を維持して継続的に従業員の待遇を上げていくことが難しいため、のれん分け制度を整備して従業員を動機付けるケースがよくあります。

社内人事施策としてのれん分けを活用する

店舗展開の初期にのれん分け制度を導入したほうが良い理由

のれん分け制度(社員独立制度)は、店舗展開の初期に導入することをお勧めします。店舗数が増えた後、事後的に制度を導入すると様々な矛盾が生じるためです。例えばのれん分け制度が存在しないときに入社した従業員は、そもそも独立に対して消極的である可能性があります。独立を志向していない従業員にのれん分け制度を勧めてもうまくいくとは考えにくいでしょう。また、事業開始後一定期間経過した頃は、当時入社した社員はその分年齢を重ねています。こういった事情も従業員が独立に二の足を踏む理由になります。さらに、店舗を増やす場合は2店舗目の出店が一番大変です。1店舗を2店舗にするには2倍の努力が必要ですが、2店舗を3店舗にする時は1.5倍の努力で済むのです(済むというのもおかしな表現ですが)。いずれにせよ、店舗展開の初期には一緒になって頑張ってくれる仲間の存在が大切になります。したがって、できれば店舗展開の初期にのれん分け制度を導入し、独立意欲のある仲間と一緒に店を盛り上げましょう。自分の将来につながる仕事なら意欲的に取り組んでくれるはずです。働く人の意欲が高ければ業績も自然と向上していきます。そうして店舗展開に弾みがつけば、あなたの店にはさらに人が集まり、次のステージが見えてきます。2店舗目でのれん分けに成功した従業員の存在は、3店舗目を目指す人に向けた成功事例になるでしょう。これから店舗展開をお考えの方は、のれん分け制度を利用した多店舗展開にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

キャリアの選択肢を準備する

しかしながら、のれん分け制度を導入しても入社時に覚悟が決まっている人は少ないのが実態です。独立希望者は従業員として勤務しながら技術を習得し、同時に自己資金を貯める必要があります。独立時にはある程度の自己資金が必要なのです。さらに、独立する時にはパートナーがいることが望ましいです。パートナー無しで独立した場合、万が一自分が病気などにかかったらお店は休業してしまいます。求人媒体などで募集するという方法もありますが、通常は奥さんや家族に協力を頼むケースが多いです。こういった実情があるため、ひとまず入社して勤務を開始し、平行して独立の準備をしていくことになります。
そこで私が提案したいのは、キャリアの選択肢を準備することです。例えば、一定の役職(店長など)になったタイミングで従業員と面談を行い、そのままのれん分け制度で独立するか、または社内でキャリアアップを目指すか、2つの道を選択できる仕組みにします。2つの道を明示することで、入社時のハードルを下げることができます。店側としては、入社後の勤務状況を見て独立に適した人材かどうかを判断する時間を作ることができます。

のれん分けの留意点

のれん分け制度に取り組む際にはいくつかの留意点にお気を付けください。一緒に働いてきた仲間とはいえ、独立後はお互いに取引先としての関係になります。先々に無用なトラブルや事故が起きないように、あらかじめ詳細を確認しておく必要があるでしょう。例えば以下のようなものがあります。
①のれん分けまでのステップを明確にすること
・従業員教育、透明性のある評価制度、のれん分けまでのスケジュールなど
②独立後の権利義務を明確にすること
・売上管理の方法、仕入れ先、従業員の雇用元、納税主体、運営指導の頻度など
③各種契約書を整備すること
・業務委託契約書、運営委託契約書、経営委託契約書など

店舗展開をお考えの方は、初期段階の社内人事制度としてのれん分けを活用してみてはいかがでしょうか。従業員のやる気を十分に刺激し、店舗展開に弾みをつけることができるでしょう。
フランチャイズ研究会には多様な分野の専門家が在籍しています。なにかお困りの際はお気軽にお問合せください。


【参考図書】
飲食店のれん分け・FC化ハンドブック
21世紀型のれん分けビジネスの教科書
中小企業の事業継続を助ける日本伝統の承継手法(のれん分け・社員独立)

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