コロナ禍におけるフィットネス業フランチャイズの動向

高齢化の進展や健康志向の高まりの中で、拡大を続けていたフィットネス市場において、休業要請や、3密回避、非接触が推奨されるコロナ禍は、他業種と同様に深刻な影響を与えていると考えられます。そこで、コロナ禍においてフィットネス業フランチャイズの動向及び今後の展望について検討をしました。

コロナ禍におけるフィットネス業の状況

はじめに、フィットネス業界がコロナ禍において、どのようにダメージを受けているのか、経済産業省の特定サービス産業動態統計調査データから検討しました。

フィットネス業における2019年と2020年の売上比較のデータを抜粋し以下に示します。

出典:経済産業省:特定サービス産業動態統計調査

コロナ以前の2019年のフィットネス業の売上高は324,524百万円に対して、コロナウイルス流行が直撃した2020年の売上高は215,814百万円となり、市場規模において約35%も減少しました。

次に、コロナ発生から現在までの推移比較として、2020年と2021年の1月から5月までの売上高、および2020年と2021年の同月売上の増減を比較した売上高前年同月比率を以下に示します。

出典:経済産業省:特定サービス産業動態統計調査

売上高前年同月比率については、2021年2月まで12か月連続で100%を割りこみ、減少業種となりました。このことからも2020年のフィットネス業が、いかに厳しい状況であったかがわかります。特に2020年5月の緊急事態宣言1回目の月は、フィットネス業において最も厳しい月となり、業界売上高は僅か1,721百万円でした。しかし、売上高前年同月比率は2021年3月より増加業種に転じており、直近の2021年5月には売上高前年同月比率が842.1%となり、2020年に比べると2021年はやや回復の兆しも見られています。

フィットネス業フランチャイズタイプの特徴

ダメージを受け事業の立て直しが急務のフィットネス業界ですが、一言にフィットネスと言っても様々なタイプがあり、フィットネス業フランチャイズにおいても多くのタイプが存在します。そこでフランチャイジーの観点で、フィットネス業フランチャイズの特徴を検討しました。まず、フィットネス業フランチャイズは大きく2つの業態に分けられます。

1つ目は、総合業態型フィットネスクラブであり具体的には、コナミスポーツクラブなどメジャーなフィットネスが挙げられます。
2つ目は、専門性に特化した小規模業態型で、客単価やターゲット層などに応じて細分化されています。具体的には、24時間年中無休のエニタイムフィットネス、女性専用のタニタフィッツミー、パーソナルトレーニングの1StarAidなどが挙げられます。

ここでは、各フィットネス業フランチャイズの特徴を整理する為、以下の4つのフィットネスタイプで分類し検討します。

  1. 総合型
  2. 24時間型
  3. 女性専用型
  4. パーソナルトレーニング型

4C分析

4C分析とは、顧客や利用者の視点からサービスの提供を考える分析方法で、サービスを顧客価値(Customer Value)・顧客のコスト(Cost)・顧客の利便性(Convenience)・顧客とのコミュニケーション(Communication)の4つの要素で分析する手法です。分類した各フィットネスタイプを4C分析した結果を以下に示します。

フィットネスタイプ 顧客価値 顧客コスト 顧客の利便性 顧客とのコミュニケーション
1.総合型
  • マシン、バス、サウナ、プール等の豊富な設備利用
  • 地域コミュニティ
  • 筋力強化
10,000円/月 駅近や住宅地などに立地し、良い 受付や常連客の接点はあるが、コミュニケーションがやや少ない
2.24時間型
  • 豊富な設備利用
  • 人との関わりが少ない
  • 筋力強化
6,000円/月 駅近や住宅地、テナント内などに立地し、常時利用可能でとても良い マシン利用のみの為、コミュニケーションがほとんどない
3.女性専用型
  • 女性同士の安心感
  • 地域コミュニティ
  • 生活習慣病予防
5,000円/月 駅近や住宅地、テナント内などに立地し、とても良い 女性同士のコミュニティでコミュニケーションが豊富
4.パーソナルトレーニング型
  • 専門家のコンサルティング
  • 人との関わりが少ない
  • 幅広いパーソナルプログラム
100,000円/月 パーソナルトレーナーの移動範囲に店舗立地が依存する為、あまり良くない マンツーマンが基本の為、コミュニケーションがとても豊富

4C分析を踏まえたポジショニングマップ

4C分析を踏まえて、横軸に顧客価値としてのトレーニング強度を、縦軸に顧客コストや顧客とのコミュニケーション(人件費)としてのフランチャイザーの投資コストを設定し、ポジショニングマップを作成しました。

ポジショニングマップから、フランチャイズ投資コストが低く、トレーニング強度がソフトである左下領域に空白地帯が見られます。少子高齢化が進展し、健康について大いに見つめ直す機会を得た消費者が増えたコロナ禍、及びポストコロナにおいて、取り組みのハードルが低く、これまで以上にお手軽なこの空白地帯のフィットネス業フランチャイズが増加していくのではないかと想定されます。

フィットネス業フランチャイズの最近のサービストレンド

コロナウイルス流行前と流行後では、顧客の生活様式や購買行動が大きく変化しました。新しい生活様式を踏まえた顧客ニーズの多様化に対応する為、フィットネス業フランチャイズにおいても希少性、独自性を高めるサービスの細分化がこれまで以上に急激に進んでいます。最近のフィットネス業のサービストレンドを具体的なフランチャイズをピックアップしながら検討しました。

3密回避・コロナ感染対策

総合型フィットネスからパーソナル型フィットネスまで、全ての業態での大きなトレンドとなっているのが、当然ですが3密回避・コロナ感染対策です。特にパーソナルトレーニングにおいて、対策が打ちやすくなっており、具体的なフランチャイズでは、完全個室セルフフィットネスのハコジムや、RIZAPでの全パーソナルトレーナーへのPCR検査など、顧客が安心して利用できる環境づくりがトレンドとしてあります。

AI活用

専門型フィットネスの1つとしてAIを活用したフィットネスがトレンドになりつつあります。メリットとして、顧客に合った最適なトレーニングを提供できること、マシン主導により効率化され、人件費削減等フランチャイジーとしても投資効果が高まること、先端技術の活用がユニークであり、それ自体で独自性が出せること、前述の「3密回避・コロナ感染対策」とも関連しますが、人と人との非接触を推進できること、などが挙げられます。具体的にはFURDIMilonなどがあり、また、前述したハコジムもAIスマートミラーを導入しています。今後、ますますAI活用のトレンドは拡大すると考えます。

介護予防との連携

超高齢化社会を迎え、介護予防と連携したフィットネスもトレンドとして考えられます。下図は平成26年経済産業省産業活動分析における『フィットネスクラブ会員の年齢別構成比の推移』です。

この表から約6年が経過した現在において、会員年齢の高齢化が進展し、60歳以上の会員比率の更なる上昇は明らかです。ロコモティブシンドロームやサルコペニア、フレイルの対策など、高齢者をターゲットとしたサービス対応はフィットネス業において必要不可欠となっており、健康寿命の延伸を効果としたサービスがトレンドになりつつあります。

具体的にはインターネットインフィニティのレコードブックや、悠悠いきいき倶楽部などのサービスが挙げられます。

ポストコロナにおけるフィットネス業フランチャイズの展望

ワクチン接種率の上昇など、ポジティブな要素もありますが、デルタ株への置き換わり等、まだ新型コロナウイルスの影響は収束の目途が立っていないのが現状です。大きなダメージを受けたフィットネス業フランチャイズの立て直しにおいて、3密回避・コロナ感染対策は当分の間、必須になってくると考えられますので、オンラインでの指導や、消毒液やマスク対策などは、差別化の要素とはなりづらく、3密対策・コロナ感染対策に加えてプラスアルファの付加価値を顧客に提供することが重要になってきます。

拡大市場であり厚生労働省が推進している地域の介護予防に貢献し、生活機能低下を防ぐような、トレーニング強度がソフトであるフィットネス業フランチャイズや、独自性を追求し、低コスト化を実現可能なAIやアプリを活用したフィットネス業フランチャイズ、企業の健康経営と提携するフィットネス業フランチャイズなどへの参入は、先述のポジショニングマップにおけるトレーニング強度のソフト化、フランチャイジー投資コストの低コスト化が求められる空白地帯への参入要素の一つであり、今後も立て直しの切り札や、事業再構築の要素として増加するのではないかと考えます。

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