日本を変えたフランチャイズチェーン

イノベーションを起こしたフランチャイズチェーン6つの事例

日本政府は、日本経済を活性化させ、再興していくための政策の柱として、イノベーションによる成長実現を掲げ、中小企業・小規模事業者のイノベーション推進を支援しています。中小企業のほうが、リスクを決断できる、迅速な意思決定ができる、など有利な点もありますが、スピード感のある事業展開を図るためには、資金や人材が不可欠となります。これらの経営資源を補完してくれるのが、フランチャイズ・システムです。

イノベーションとは

イノベーションとは、英単語として訳せば「革新」ですが、「新しい価値を創り出し、顧客へと訴求すること」と解せばわかりやすいと思います。一般的にイノベーションといえば、優れた技術やデザインによる真新しい製品をイメージすることが多いのですが、優れたビジネスモデルがイノベーションを引き起こすことも少なくありません。

他人資本の活用に加えてブランド、商標、商売のノウハウ、サービス品質の維持、経営支援をパッケージとして組み込んだフランチャイズチェーンという仕組みもまた、画期的な店舗展開手法としてのイノベーションであるといえるでしょう。

フランチャイズチェーンは、イノベーティブな店舗展開手法ではありますが、フランチャイズであること自体は目的でありません。あくまでも、ビジネスモデルありきです。参入障壁が低いなどの理由で、できるだけ早くにマーケットシェアを獲得するために、レギュラーチェーンにおける短期的な資本効率の悪さから、フランチャイズの他人資本活用による資本効率向上を活かした早期多店舗展開を行うなどの手段として活用するものです。したがって、ビジネスモデルがイノベーティブであることが重要です。

フランチャイズチェーンはレギュラーチェーンに比較して成長期に効果的な多店舗展開手法です。魅力的なビジネスモデルを構築した本部と一緒にビジネスをしたい、という加盟者の他人資本を活用して社会への露出を増やし、積極展開をしていきたいタイミングで多店舗展開を実現できるからです。

ところが、右肩上がりの成長期が過ぎ、社会的にも認知されてブランドにもそれなりの価値がついてくる安定期や成熟期に入ると状況が変わってくることがあります。その主な理由としては以下の3つがあげられます。

  1. 競合の出現(模倣)
  2. 加盟店から提供するサービス品質のバラツキ
  3. 後継者問題をはじめとした「ヒト」の問題

フランチャイズでの成長に陰りが見えてきたとき、直営化を進めていくことは一つの有効な手段ではあります。ではフランチャイズで永続的な成長は望めないのでしょうか。決してそうではありません。たとえば、以下の2点が満たされていれば可能になるでしょう。

  1. 模倣が困難である
  2. 理念の共有が高レベルでなされている

イノベーションを起こしたフランチャイズチェーン事例

日本を変えた代表的なフランチャイズチェーン6社を取り上げ、紹介します。

事例1|CoCo壱番屋

カレーショップ業界で圧倒的シェアを誇る株式会社壱番屋の強さのポイントは、ブルームシステムという独自の人材育成システムにより、スピーディーに多店舗展開を実現したことが大きいと考えられます。
①ブルームシステムという独自のフランチャイズシステムで、独立志向の強い人材に時間をかけて教育をしていくことで、経営理念とスキルをもったパートナーを多数輩出することができた。
②国民の多くが好むカレーライスというメニューに絞り、無限のバリエーションが可能となるような選択肢を提供することで、消費者の心をつかんだ。
③ブルームシステムにより全国に出店が可能となり、カレー専門店では業界で圧倒的な店舗数のチェーン店を作ることができた。

事例2|QBハウス

QBハウスは、顧客の立場からの不満をもとに、サービス内容をカットだけという機能志向へ絞込み、システム投資とFCモデルで10分1,000円というビジネスモデルを確立、普及させました。
①顧客としての「不」を突き詰める。
カットだけを提供し、髭剃りやシャンプーなどのサービスを省きました。
②業界慣行にとらわれずサービスを捉え直す。
提供できる付加機能を絞り込んででも、徹底して10分間のカットという短時間でのサービス提供という機能を優先しています。一方、買物や通勤の途中でカットできるようにシッピングモールや駅構内などに立地し、混雑状況が分かる三色ランプを設置し、ガラス張りの店舗で、入る前に混んでいるかどうかが確認できるようになっています。これにより、顧客はスキマ時間の有効活用という便益を得ています。短時間でカットができることをサービスコンセプトとして顧客に対して提供しているからです。顧客の時間を大切にするという、これまでの理容業ではなかった価値観を新たに提供しています。
③サービスの担い手の視点。
カットのみに限定しシャンプーやパーマの業務をなくしたことで、カット業務の経験値が高まります。

事例3|セブンイレブン

セブンイレブンは、流通の商慣行を変革し、店舗在庫を削減させました。
①商店を組織化して、大型店に負けないサプライチェーンを構築した。
②在庫を最小限度にして、商品回転率で売上拡大させた。
売れたものはすぐに補充し、高回転で売上拡大させる仕組みを構築しました。それが多頻度小口配送です。当時の商慣行では非常識だった多頻度小口配送を実現するため、「ドミナント出店」「ベンダーの集約」「共同配送」に取り組みました。
③365日24時間営業を開始した。
深夜や元旦なども営業し、消費者の生活習慣を変えました。

事例4|ハードオフ

ハードオフは、リユース業という新たな市場を作ったパイオニアです。
①リサイクルショップの概念を破壊。
リユースショップを創り上げ、保証制度により安心を提供しました。
②技術が必要である家電のリユースでフランチャイズのビジネスモデルを固めた。
ハードオフチェーンの加盟店は原則家電販売出身のため、技術力があります。大型家電店の台頭で廃業の危機にあった家電店を業態転換させ、組織化しました。

事例5|明光義塾

明光義塾は、教育産業において、家庭教師と集団塾のよいところを組み合わせた事業モデル、個別指導塾という新たな業態を作ったパイオニアです。
①集団塾と家庭教師のメリットを取り入れ、成績中位層に対して個別指導塾という新たな分野を開拓した。
②塾講師に大学生を採用することや店舗運営コスト低減よりFCオーナーが取組みやすい環境を整え、FC加盟店を急速に増やした。

事例6|モスバーガー

ハンバーガーは米国から持ち込まれた食品であるので、マクドナルドでは米国にならった仕様で販売していました。しかしモスバーガーの創業者は、日本人のオリジナリティを追求したチェーン展開をめざしました。
ファーストフード業態にレストラン業態の優れた要素を取り入れ、最近あらわれたファストカジュアル業態に近い独自のフォーマットを構築しました。

イノベーションに貢献したフランチャイズの特徴

6チェーンの事例を通じ、イノベーションに貢献したフランチャイズの特徴が浮かび上がります。

特徴1|中小事業者を組織化

セブンイレブンでは、酒店・たばこ店など中小小売店を組織化しました。ハードオフでは、中小の家電小売店を組織化しました。いずれも大型店の台頭で廃業の危機にありました。明光義塾では、脱サラした事業者を組織化しました。危機感を持った事業者の活力がフランチャイズチェーンのなかで発揮されたことが、チェーンの成功、イノベーションにつながっています。

特徴2|低投資モデル

フランチャイズチェーンは、加盟者の成功なくして本部の成功はありません。加盟者の成功可能性を高めるためには、初期投資額を抑え、利益を出しやすいビジネスモデルを構築する必要があります。QBハウスはシャンプーをなくすことで低投資型の設備になりました。明光義塾は小教室モデルにしたことで低投資になりました。ハードオフは家電小売店当時に比べて在庫負担は低投資です。セブンイレブンは建物設備を本部が投資するCタイプを用意したことで加盟店の初期投資が低投資となりました。低投資モデルにすることで加盟者が加盟しやすくなり、普及(すなわち店舗増加)を後押ししています。

特徴3|高回転率経営

低投資モデルで収益性を高めるためには、回転率を高める必要があります。セブンイレブンは店舗在庫を最小限にし、多頻度小口配送によって売れる直前に仕入れる仕組みを構築したことで高い商品回転率を実現しました。QBハウスはカットに絞り込み10分でサービス提供できる仕組みにして高い座席回転率を実現しました。明光義塾は1コマの授業時間を120分から90分にして1日の授業回転数を2回転から3回転とし、高い回転数を実現しました。

特徴4|理念の共有

フランチャイズチェーンは独立した事業者が契約で結ばれています。独立した事業者を束ねチェーンの統一感を保つには理念の共有が欠かせません。明光義塾やモスバーガーは、オーナー会があって、共存共栄のもと、理念の共有が図られています。また、CoCo壱番屋では、ブルームシステムにより、一定期間の社員教育を通じて、理念の浸透が図られています。

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